去勢と避妊について

現代においては、避妊去勢は「意図しない出産を防ぐ」というより、「特有の病気を予防する」という目的で行われるようになりました。避妊去勢をするかどうかは、当犬舎ではオーナー様の意思にお任せしています。各家庭での生活スタイルや、環境に応じて選択されますよう、お願いしています。

牡犬の去勢

牡牝同居飼育していて、どちらを避妊したらよいかと聞かれたら、牡犬の方の去勢をお勧めすることが多いです。それは、牡犬の方が「牡らしさ」からくるトラブルや問題が多いからです。

牡犬特有の行動と言えば、1頭飼育なら困るのはマーキングくらいなものですが、2頭以上、特に牝が同居となると、少し違ってきます。自分の「群れ」を守ろうとする本能が強くなり、他の牡犬に対して攻撃的になることがあります。散歩中に他の牡犬に出会うと、ガウガウ攻撃的になるので困ったという話は良く耳にします。

また、最近ではドッグランやドッグカフェを利用する事が多いと思いますが、未去勢の牡同士の喧嘩はもちろん、大人しい牡であっても、ヒート間近、またはヒート後の牝にしつこく付きまとうなどしてヒンシュクをかってしまうことは良くあることです。

マーキングについても、遊びに行った他所のご家庭でやってしまったとか、お散歩中に他所の家の門柱にやってしまったとか、オーナーさんを悩ませる行動です。ちなみに、成犬であれば自分の家の中ではマーキングしないのが普通です。なので、他所の家でも大丈夫と思っていると、大失敗をすることになります。

マーキング行動や他の牡に対しての攻撃行動は、去勢することによってほぼなくなります。最近の犬との生活スタイルからすると、牡犬は去勢した方が問題が少ないということになります。

牝犬の避妊

牝犬の避妊は、牡犬よりも「病気予防のため」という目的が大きくなります。避妊することによって防ぐ、または発症率を低くすることができる病気としては、乳腺腫瘍、子宮蓄膿症、卵巣腫瘍(膿瘍)があります。乳腺腫瘍については、避妊が早ければ早いほど、発症率が下がります。子宮と卵巣の病気は、切除してしまえばその後は発症の可能性はゼロになります。
牝は半年~一年に1回程度、ヒート(発情)がありますが、避妊してしまえば、当然なくなります。ヒート中は牡犬に付き纏われる、出血で汚れが気になる、ドッグランなどに連れて行けないといった事がありますが、こういった問題もなくなることになります。

それでは、いつ避妊するのが良いかという事になりますが、牡の場合と同じで、獣医師によって多少は異なるようです。乳腺腫瘍は初回のヒートの前に避妊すれば、100%発症しないとも言われています。ですので、初回のヒートの前に避妊手術を勧める獣医師は少なくありません。
けれど、やはり牡の場合と同じで、あまりにも早い避妊手術は、体格が未完成なままで止まってしまう可能性があります。また、早期避妊により、泌尿器トラブルが増加するとも言われています。尿漏れ等を起こす可能性があります。
当犬舎では、とりあえず1回目のヒートは見送っていただき、早くても1回目のヒートが終わって2ヶ月以上経過してからの手術をお勧めしています。2か月後というのは、ホルモンバランスが安定するのを待ってからという意味です

また、早期避妊した犬ほど、膀胱炎や尿結石症になりやすいという報告もあるようです。膀胱癌は避妊済みの10歳以上のコリーとシェルティーに多いそうです。また、骨肉腫の発症率も、避妊が早ければ早いほど、高いと言われています。
ただ、コリーは未避妊の場合、10歳以上で子宮蓄膿症を発症することが多く、未避妊のままでいることが安全とも言えません。また、老齢になってからの避妊手術は、のちに尿漏れを起こすことがあります(多くは一時的なものです)。

牝の避妊手術はオスの去勢に比べ、お腹を大きく切開することになりますので、通常は1泊2日以上の入院が必要です。一般的には子宮と卵巣を同時に切除する方法が多いのですが、卵巣のみ切除するという方法もあります。後者の方が切開口が小さく、負担が少なくて済むというメリットがあります。子宮は残りますが、卵巣がないのでヒートはありません。子宮は退化し、縮んでしまうので、蓄膿症になることもないそうです。
ただし、多くの病院では同時切除を行っているようです。卵巣のみ切除の場合、卵巣の一部を取り残してしまうと、ヒートが来てしまうことがあり、確実な避妊を望むなら、同時切除の方が良いという事なのかもしれません。
それから、コリー独特なのかもしれませんが、避妊後は毛質が大きく変わります。ヒートがないので、毛周期も変化します。そのため、多くは避妊前より毛量が多くなり、毛質も絡みやすくなるので、手入れが大変になります。

繁殖について

いつかは訪れるその時の為にも、愛犬の子供を残しておきたいという気持ちは、誰しも一度は抱くことでしょう。けれど、犬は安産と言われますが、決してそうばかりではありません。難産になることは珍しくありませんし、子犬ばかりでなく、母犬までが命を落とすこともあります。また、両親が健全であったとしても、障害を持って生まれる子犬はいます。マイナスリスクも十分に覚悟することが必要です。

牡犬の場合、子孫を残すことは容易ではありません。お嫁さんが来てくれるのは、ドッグショーでチャンピオンになった、ごく一部の牡だけです。チャンピオンになったとしても、お嫁さんが来てくれるということも殆どないと言っても良いかもしれません。。
牝の場合、交配可能な牡犬を探して交配をお願いすれば、子孫を残すことは可能です。しかし問題は生まれた子犬をどうするか?です。運よく、安産で出産できたとして、母乳もよく出て順調に育ったとしても、子犬をすべて置いておくわけにはいかないでしょう。生まれた子犬が1~2頭ならいいのですが、場合によっては8~9頭という事もあります(平均的には4~6頭)。その子達の譲渡先を、どうやって確保するかが一番の問題となります。

一般にはあまり知られていないことなのですが、動物を繁殖して、有料で販売する場合、都道府県知事又は政令市の長の登録を受けなければなりません(第一種動物取扱業者)。つまり、未登録のまま繁殖をし、販売することは違法行為となります。(無料で譲渡するのであれば、この限りではありません。)
新聞、雑誌、インターネット上での飼い主募集は、登録番号がない場合はできませんので、飼い主探しが大変困難になります。登録済みのペット仲買業者に依頼するケースもありますが、ペットショップの狭いショーケースの中で売れ残ってしまうかもしれないと思うと、到底できない事と思います。

繁殖をしてみたいという事であれば、新たに第一種動物取扱業者として登録することが必要です。各都道府県にある、所轄の動物管理センター等にお問い合わせください。