4種類の毛色
コリーには大別して4種類の毛色があります。一番良く知られているのは、名犬ラッシーと同じ「セーブル&ホワイト」と呼ばれる毛色です。短縮して「セーブル」と呼ばれることが多いです。セーブルには更に遺伝的な違いから、「ヘテロセーブル」「ホモセーブル」「セーブルマール」に区別されます。
その次に多いのが「トライカラー」と呼ばれる、黒が主体の毛色です。さらに、大理石模様の「ブルーマール」、体の75%以上が白い「ホワイト」があって、全部で4種類となります。
セーブル
ヘテロセーブル(トライファクターセーブル)
トライの遺伝子を持つセーブルのことをヘテロセーブルと言います。トライ、ブルーマール、または同じヘテロセーブルとの交配で、トライが生まれる可能性があります。
おおむね、トライの遺伝子を持たないホモセーブルより黒い差し毛が多いので、濃いセーブル色になります。
濃いセーブルであっても、子犬時代は淡い色であることが多く、成長に従って濃い色になってきます。
ヘテロというのは遺伝子上での区別ですので、正確には毛色を表すものではありません。毛色を表すには「ダークセーブル、レッドセーブル、マホガニーセーブル」など、様々な呼び方があります。
また、遺伝子的にはヘテロセーブルであっても、見た目は明るいセーブルである犬もいます。2番めの画像の犬は黒い差し毛がない明るいセーブルですが、トライの子を出産していますので、ヘテロセーブルです。
このような場合でも、頭部の差し毛の色を見れば、この犬がヘテロセーブルであると判別できます。ヘテロセーブルの犬は体色は明るくても、頭部の差し毛ははっきりした濃い色であることが多く、俗にMラインと言われる輪郭がはっきりしています。ただし、この場合でも、若い犬や老犬でははっきりしないこともあります。
ホモセーブル(ピュアセーブル)
トライの遺伝子を持たない、純粋なセーブルを遺伝子上の表現でホモセーブルと言います。トライと交配しても、トライの子犬は産まれません。
おおむね、ヘテロセーブルよりも明るい色であることが多く、頭部の黒い差し毛の色も淡く、Mラインがはっきりしません。
ホモセーブル同士の交配、またはヘテロセーブルとの交配を重ねていくと、退色してベージュに近い色になります。これは好ましくないとされています。(ただし、将来濃いセーブルになる犬であっても、幼少期は薄い色であることもあります。)
ホモセーブル同士の交配なら100%、ヘテロ×ホモの場合は50%、ヘテロ×ヘテロの場合は25%の確率でホモセーブルが生まれます。
セーブルは年齢を重ねるにつれて色が濃くなる傾向があります。仔犬を選んだ時には明るい色だったのに、ダークセーブルになってしまったという事は良くあることです。
ホモセーブルはトライの遺伝子を持たないので、ヘテロセーブルほど濃く変化はしません。もし、明るいセーブルが好きで、明るいセーブルの犬が欲しいという事であれば、ホモセーブルの子犬を選ぶと良いと思います。
トライカラー
コリーの原種と言われる毛色です。トライというのは「3色」という意味です。トライは他のどの毛色と交配しても問題はありません。
顔や足に入る茶色の毛色は「タン」と呼ばれます。このタンの色は個体によって濃淡に違いがあります。
タン色は顔には必須ですが、四肢には入らないこともあります。
老犬になると、下の写真のように赤味を帯びた黒になる犬もいます。または灰色かかった黒になる犬もいます。
日本においては、セーブルの次に多い毛色です。
トライ同士の交配ではトライのみが生まれます。ヘテロセーブルやブルーマールとの交配で理論上は50%、ホモセーブルとの交配では0%です。
ブルーマール
トライの毛色にマール遺伝子が作用して、黒い毛色を希釈することにより灰色にします。それにより、大理石のような模様になります。
一口にブルーマールと言っても、そのバリエーションは様々で、コリーの毛色の中では最もバラエティーに富んでいるといえます。
また、コリーの犬種基準では「目の色は毛色に準ずること」とありますので、ブルーマールのみ、目の色が灰色やブルー色であることが認められています。
4枚の画像は、それぞれ典型的なブルーマールのタイプをあげたものです。
黒と灰色の分量が均等なタイプ(灰色の中に大きめの黒班)、灰色の割合が多いタイプ(灰色の中に小さい黒班)、全体的に黒の配分が多いタイプ、そして4枚目の画像は白い毛色が多いタイプです。
黒が多く、トライに近いタイプはクリプティックブルーマールとも称されます。中には限りなくトライに近い個体もいて、交配に注意が必要です。
また、灰色の部分が茶色かかった茶褐色になっている犬も見かけられますが、全体が茶褐色を帯びたものは好ましくないとされています。
ブルーマールは交配に注意が必要で、トライとの交配が望ましいとされています。セーブルとの交配ではセーブルマール(後述)が生まれるため、熟練者でなければ避けるべきとされています。
ブルーマール同士、あるいはセーブルマールとの交配は嫌忌とされています。マール遺伝子は単独では先天性障害などを引き起こすことはないのですが、両親からそれぞれマール遺伝子を受け継ぎ、ダブルマールとなると、様々な障害が生まれます。おもに視力、聴力に重い障害がおきます。短命になることもあるそうです。(ダブルマールの画像はありませんが、全身がほぼ白、一見すると見た目がホワイトコリーによく似た感じです)
写真のように、同じブルーマールでも配色によってかなり印象が違ってきますので、ブルーマールの子犬を求める時はブリーダーとよく相談しましょう。個人的な印象としては、灰色の中に小さい黒班が入るタイプは、同じようなタイプしか生まれないようです。灰色の中に大柄の黒班が入るタイプからは、時にクリプティックが生まれることがあるようです。
目の色については、生後1か月ほど経過してからの判断となります。開眼してもすぐにはわかりません。
ブルーアイには全体がブルーなもの、部分的にブルーなものなどがあります。ほぼノーマルアイなのに、ごく一部に星のように色素が抜けたものもあります。
獣医師によっては、ブルーアイは視力が弱いと認識していることもあるようですが、そのようなことはありません。ただ、色素がないぶん、紫外線による影響は受けやすいかもしれません。白内障などには注意した方が良いのかもしれません。
セーブルマール
トライにマール遺伝子が作用することにより、黒が希釈されて灰色になるブルーマールに対し、セーブルマールは「セーブルにマール遺伝子が作用することにより、セーブルが希釈されて部分的に淡い色になった毛色」です。
セーブルマールはブルーマールと同じく、マール遺伝子を持っています。セーブルとブルーマール(またはセーブルマール)を交配することによって生まれる可能性がある毛色です。
セーブルマールもマール遺伝子は一つだけですので、ブルーマールと同じく、健康上の問題はおきません。しかし、繁殖における注意点は同じで、マール遺伝子を持つ者同士を交配することは避けなければなりません。
ブルーマールが灰色と黒の区別がはっきりした斑を持つのに対し、セーブルマールは茶色の濃淡が生ずるだけなので、個体によってはセーブルとの判別がしにくかったりします。そのため、誤ってブルーマール(またはセーブルマール)と交配してしまう可能性があることから、セーブルマールの取り扱いには慎重でなくてはならないとされます。
また、ブルーマールと同じく、目の色がブルーになることがあります。セーブルマールの場合、毛色が「茶色」なのですから、それとは大きく異なる目の色は犬種基準では認められていませんので、ミスカラ―となります。
国内に置いては、「セーブルマール」という毛色は認められていないため、セーブルマールでの登録はできません。コリークラブでは「セーブル」として登録されます。そのため、血統書だけでは「セーブルマールであることが確認できない」という問題が生じます。
愛犬がセーブルマールであることを知らないまま、繁殖をしてしまうことがないよう、ブリーダーはその子犬がセーブルマールであることを的確に判断し、飼い主さんに説明する必要があります。
セーブルマールにもブルーマールと同じく、様々なパターンがあります。ブルーマールほどコントラストがはっきりしないので、一見するとセーブルと見分けがつかない個体もいます。そういった犬であっても、乳児期には比較的はっきり斑がでていますので、この時期に的確に判断することが重要となります。
一枚目の画像は不規則な濃淡があるので、セーブルマールであることがわかりやすい個体です。それに対し、2枚目は頭部の一部に濃淡があるだけで、目の色もノーマルなため、一見すると普通のセーブルに見えます。
セーブルマールを繁殖に使う場合、相手はトライを選択すべきとされます。相手がセーブルの場合、もしかしたらその犬もセーブルマールであるかもしれないという危険があるからです。
セーブルマールはブルーマールと同じく、首周りの白いカラーなど、白い部分が比較的広く、派手な印象の犬が多いです。繁殖はしない、ドッグショーには出さないということであれば、飼育には問題はありません。
ホワイト
シェルティーでは認められていませんが、コリーではバリエーションの一つとしてあるのがホワイトです。
ただし、全身が白いのではなく、頭部は必ずカラーヘッドでなくてはなりません。JRテリアなどにみられるパイボールドと同じです。
ホワイトコリーのベースはそれぞれセーブル、トライ、ブルーマール、セーブルマールです。それらの毛色にホワイトファクター遺伝子が作用することにより、白い部分が多くなり、ホワイトコリーとなります。ベースとなった毛色に準じて、その色の頭部を持ちます。
ホワイトコリーはホワイトファクター遺伝子を、両親のそれぞれから受け取ることによって生まれます。つまり、両親のどちらもホワイトコリーか、ホワイトファクターを持つコリーでなくてはホワイトコリーは生まれません。
ダブルマールも同じく全身のほとんどが白となりますが、遺伝的にはホワイトコリーはダブルマールとは全く異なる作用によって白を生じます。したがって、ホワイトコリーにはダブルマールのような先天的な疾患などの健康上の不具合はありません。
ホワイトコリーでなくても、白い部分が広くある個体もいます。ホワイトコリーとして登録するには、およそ全身の75%以上が白いこととされています。おそらく、頭部は除いての事だと思いますが。
頭部以外、すべて真っ白なホワイトもいれば、一部に斑がある個体もいます。残念ながら、日本国内においては、数年内に絶滅するのではないかと言われているくらい、少ない毛色です。
外国には熱心なファンシャーが多くいて、ホワイトコリーだけの団体があるほどですが、日本ではここ数年の新規登録は皆無ではないかと思います。
ホワイトコリーにはブルーマールのような繁殖制限はありませんが、ブルーマールヘッド、セーブルマールヘッドのホワイトコリーは別です。登録がホワイトであっても、マール遺伝子を持っていますので、ブルーマールと同じく、繁殖には注意が必要となります。
毛色にかかわる用語
ホワイトファクター
ホワイトファクター(白因子)というのは毛色を表すものではなく、遺伝子の事を指します。海外では毛色の表記の後に「white factored」と記されているのを見かけます。ホワイトコリーには欠かせない遺伝子です。両親のどちらもホワイトファクター遺伝子を持っていると、ホワイトファクター遺伝子を2つ持つホワイトコリーが生まれます。ホワイトコリーとなるには、ホワイトファクター遺伝子を2つ持つことが必要です。
ホワイトファクター遺伝子は優性遺伝子なので、一つだけであっても、その特徴を表します。そのため、ホワイトファクター遺伝子を持つ個体には、外見上その特徴がみられます。
- 四肢が白い
- 尾の先の白が多い
- 幅の広いフルカラー(例外有)
- 腹側にタン色(茶色)がない。
- 後足の内側の白い部分が外側まである。
上の写真のトライはどちらも幅広のフルカラーですが、左側はホワイトファクター遺伝子を持つ犬です。右のファクターを持たない犬と比較すると、後ろ足にはっきりとしたその違いが見てとれます。
写真はトライだけですが、セーブルやブルーマールでも同じです。顔の白いライン(ブレーズ)はホワイトファクター遺伝子とは関係はないようで、ファクター持ちであってもブレーズはないことが多いようです。
また、腰や背中などに白いスポット斑を持つ個体もいます。小さなものは成犬になるとほとんどわからなくなります。
よく調べてみると、典型的なホワイトファクター持ちの特徴がないにも関わらず、子孫にホワイトファクターの子がでる個体がいます。もしかしたらホワイトファクター遺伝子には強弱があるのかもしれません。あるいは、その発現をコントロールする別の遺伝子が存在するのかもしれません。
ブレーズ
コリーと言えば、名犬ラッシーのように、顏の中央に白いラインがある印象ですが、この白いラインの事をブレーズ(ブレイズ)と言います。
一般的には、ラッシーのようにブレーズのあるコリーを希望される方が多いのですが、残念ながら、ブレーズがあるコリーは多くはありません。むしろ、大変少ないです。
子犬時代にはブレーズがあっても、成長とともに細くなり、最終的には消えてしまうことが殆どです。成犬になってもラッシーのようなラインとなるには、子犬時代にかなり太いラインでなくてはなりません。およそ、目と目の間の半分以上の太さが必要です。
ブレーズには鼻先から後頭部までつながっているもの(写真上)、半分くらいまでのもの、額にだけあるものなどがあります。ブレーズのあるコリーは、鼻先が白い事が殆どです。ブレーズは成長して消えてしまっても、鼻先の白い部分だけは残ります。
ブレーズは遺伝します。両親、またはどちらかにブレーズがある場合、子犬にもブレーズがあることが多いです。
おそらく優性遺伝なのだと思います。
2枚目はブルーマールですが、ブルーマールの場合、同じように顔の中央に白いラインが入ることがありますが、セーブルやトライのブレーズが鼻先から後頭部へ向かってブレーズが伸びるのに対し、ブルーマールの場合は後頭部から鼻先へ向かって白いラインが入るので、遺伝形式は違うのではないかと思います。
セーブルマールの場合も、後頭部から鼻先へ向かってV字に白く入っている犬を多く見かけます。
写真のセーブルは、一枚目のセーブルの母親です。隣のトライは同胎です。この家系はかなりの確率でブレーズが出ます。
フルカラー
首周りの毛が白く、途切れることなく一周していることを、フルカラーと言います。ちょうど、白いショールを巻いているような感じです。
コリーはそれが定番のように思われがちですが、実際にはそうでもありません。
幅が狭かったり、途中で途切れそうになっていたり、左右対称でなかったりしても、全体がつながっていればフルカラーと称されます。
白い部分が一周していない場合、「カラーが切れている」と表現されます。「右側が切れている」「左側が切れている」というのは、片側が白くないことを表します。
ドッグショーに於いては、フルカラーであるかないかという点で、犬の良し悪しは評価されません。ショードッグを求める場合、配色にはこだわらない方が良いでしょう。
家庭犬としてコリーを求められる場合、やはりフルカラーが圧倒的人気です。
ブリーダーによって、基準は違うと思いますが、当犬舎の場合、後頭部から肩までの、首全体が白い場合を「幅広フルカラー」呼んでいます。
また、両サイドのカラーが切れていて、首の後ろだけに白い部分がある場合を「ちょんカラー」と呼んでいます。これは俗称ですので、正式な呼び方ではありません。
あくまで俗称ですが、前足についても、付け根から白い場合を「白タイツ」、肘から下が白い場合を「フレンチスリーブ」、それより少し下なら「半袖」、さらに長さに応じて「5分袖」「7分袖」などと称しています。足先のみ白い場合は「長袖」となります。