コリーに多い病気~胃捻転について

胃捻転は何らかの原因で胃が一回転してしまうことにより、入り口と出口がふさがれてしまうため、内部にガスが溜まって膨らんだ胃が周囲の血管や臓器を圧迫してしまう病気です。多くは発症からわずか数時間で死亡してしまいます。
胃捻転は突然起こります。元気だった若犬が、苦しみだして数時間で亡くなってしまう、恐ろしい病気です。グレートデンやジャーマンシェパードでは死亡原因1位となっていますが、同じく大型犬であるコリーも多発します。
どんなに健康管理に気を付けていても、胃捻転は100%予防することはできません。異変が起こったら、胃捻転かどうかを迅速に判断し、1秒でも早く手術可能な病院に連れて行くことが、命を守る方法です。

シンディーを奪った胃捻転

シンディーはわずか生後3ヶ月、120日で胃捻転により虹の橋を渡りました。
私があらかじめ、胃捻転についての知識を持っていたら、シンディーは生きていたかもしれません。
今更なのですが、胃捻転について私なりに調べ、2度とこの悲劇を引き起こさないよう予防に努めています。
元気だった愛犬をあっという間に奪ってしまう、この恐ろしい病気について、多くの方に知ってもらいたいと思います。
そして少しでも不幸を減らすために、予防に取り組んでいただきたいと思います。
万が一のために、予備知識として頭のどこかに記憶しておいていただけたらと思います。

胃捻転とは?

人間の胃は上から下の縦型ですが、犬の胃はほぼ水平になっています。これが、何らかの原因で一回転してしまうことにより、胃の入り口と出口がふさがってしまいます。丁度キャンディーの包み紙のような感じです。その結果、胃の内部にガスが溜まり、胃はパンパンに膨れ上がります。そして、膨張した胃が周囲の臓器や血管を圧迫することにより、多臓器不全などを引き起こすのです。

残念ながら、救命率が高いとは言えず、発症してから数時間のうちに他界してしまうことがほとんどです。
捻転の度合いにより、腹部の膨張を伴わない例もあるそうです。また、犬の胃は胸郭よりにあるため、腹部と言うより、胸郭が拡大する感じで拡張します。そのため、もともと胸郭の広い牡犬や、毛ぶきのよい犬では分かりにくい場合もあると思います。さらに、すでに死亡していた場合は確認できない可能性が高いと思われます。

症状について

胃捻転は食後、数時間後に発症します。あるいは直後ということもあると思います。発症すると、苦しそうに嘔吐を始めますが、内容物は出てきません。左の脇がパンパンに膨らんでいるのがわかります。苦しいので、背を丸め、うめき声を上げたりします。歯肉を見るとチアノーゼを起こしている状態です。更に大量の涎を流し、口からは泡を吹いたようになります。

立ち上がったり、歩いたりしますが、落ち着きがなく、お腹を触ろうとすると嫌がります。嘔吐の動作を繰り返し、苦しそうなうめき声を上げたりしますが、キャンキャンというなき方はしません。
胃捻転が発症する確率の高い時間帯は夜中から早朝だそうです。必ずしも、食後とは限らないそうです。(食後でない例のほうが多いとの報告もあります)また、まれに初期の段階で嘔吐、下痢を伴うケースもあり、誤診の原因ともなります。かなり進行した状態でも犬は立ち上がり、歩くことができる場合があるので、つい「様子を見よう」という判断をしてしまいがちです。シンディーも死の数分までまで歩くことが出来ました。
発症して数時間内に死亡してしまいます。早期発見が第一ですが、運良く間に合ったとしても、心不全などをおこし、助からない例が多いといわれます。胃捻転かな?と思ったら、猶予はありません。様子を見るなどとはいっていられません。即刻、獣医に「胃捻転かもしれない」と連絡し(すぐ手術を出来る準備をしてもらうため)至急、獣医へ連れて行くことが大切です。
獣医へ行ったら、まずレントゲンを撮ってもらう事です。なかには腹部の拡大を伴わない例があり、他の疾患と誤診されるケースがあるからです。実際に、腹部の拡張が見られなかったために最初の病院で誤診され、別の病院でレントゲンを撮ったら胃捻転を起こしていたという方の例もあります。

また、胃捻転を起こした犬の胃の中には大量の空気が溜まっているのですが、これは犬が空気を飲みこんだことによっておこります。もともと物を飲み込む嚥下機能に障害を持っている犬ほど、胃捻転になりやすいという報告があるそうです。食事を飲み込むときに、上手く飲み込めない為、何度も飲み込む動作をするために空気も一緒に飲み込んでしまうことからおこるようです。時々何かつっかえているような飲み込み動作をする場合は注意した方が良いと思います。

コリーと胃捻転

胃捻転は一般的に大型犬、それも胸の深い犬種に多いといわれます。グレーハウンド、ドーベルマン、シェパードなどです。しかし、私の知る限りでは、コリーには少ないとは言い切れません。なぜなら知人、友人の中に胃捻転で愛犬を失った方が何人もいるからです。コリーの飼育頭数からいって、これは少ないとはいえません。日本ではコリーは少数派、絶対数が少ないですから、データとしてはとても少なく、胃捻転の好発犬種とは数えられないかもしれませんが、文献によっては名前があげられています。シェパードなどほどは多くないのかも知れませんが、決して少ないとはいえないと思うのです。つまり、大型犬であれば胃捻転の発症の可能性が低いとはいえないのではないでしょうか。私の知る範囲では、老齢による死亡例や、原因が分からないものを除けば、コリーの死因で多く聞かれるのは胃捻転です。

アメリカでは、犬の死因の第一位が癌などの腫瘍、次が胃捻転だそうです。日本と違い、大型犬が多いという事もありますが、それだけ致死率が高いという事です。そして、胃捻転の好発種ベスト11にコリーは含まれています。もっとも確率の高いのはグレードデンで、単純な計算で10頭中4頭は発症するという結果が出ています。
胃捻転の発症しやすい犬種の特徴は胸が深いことと言われます。実際には胸の幅に対する深さの割合が高いほど、発症しやすいそうです。つまり、幅が狭くて胸が深いという体型です。小型犬でも、ダックスなどが胃捻転になりやすいのはこのためです。レトリバーよりも、セッターの方が胃捻転の発症率が高いことから言って、同じように胸が深く幅は狭いコリーは間違いなく胃捻転の発症率が高いといえるでしょう。

胃捻転と遺伝

胃捻転は遺伝しません。でも、胃捻転を起こしやすい形質は遺伝するといわれています。つまり、ガンになりやすい体質が遺伝するのと同じです。3親等以内にに胃捻転を起こした犬がいる場合の発症リスクは、そうでない犬の3,4倍になるそうです。私が知っている犬で、親子とも胃捻転で亡くなったケースがあります。胃捻転の場合、胃を固定している周囲の組織のつき方によって、捻転を起こしやすいか否かがあるようです。一度胃捻転を起こした場合、再発の可能性が高いので、手術によって胃を固定する方法もあるそうです。
コリーの突然死の原因には、この胃捻転が潜在的に多いのではないかと思います。前日の夕方は元気で食欲もあった、全く病気の予兆がなかった、下痢や嘔吐の形跡がなかったなど、全く心当たりがないのに、朝見たら、または仕事から帰宅したらなくなっていたという場合、胃捻転を疑うべきでしょう。特に屋外の犬舎で飼われている場合は、異変に気づかないケースが多いと思います。胃捻転になると、苦しい唸り声は出しますが、呼吸が困難になっているため、大きな声を出すことが出来ません。また、暴れることもありません。
胃捻転は若干ですが、牡犬のほうが発症しやすいそうです。私が知っている範囲では2,3歳で発症した例が多いようです。
このような突然死の例を調査し、血統的なデータを収集することによって、遺伝的に胃捻転を起こしやすい系統を探し出すことは可能だと思います。しかし、実際には困難であるといえます。

治療方法

胃捻転を起こしたら、一刻も早く治療が必要です。基本的に即刻開腹手術だそうですが、最初に胃に溜まったガスを抜く為の処置をし、その後外科手術を施します。しかし、捻転を起こした時点で、すでに周囲の組織の壊死などが起こっているため、うまく間に合って手術ができたとしても、その後の予後は芳しくないというケースが多いのです。
また、この手技は迅速さと、慎重さが必要です。あらかじめ、獣医に胃捻転の経験を聞いておくことをお勧めします。シンディーは日曜日の早朝で、かかりつけの獣医に連絡が取れず、開業したばかりの獣医に連れて行きました。まったく手が付けられず、苦しんだだけに終わってしまいました。それ以来、かかった獣医には必ず胃捻転の症例についての経験を聞いています。ある所は経験なし、または生存率ゼロ、中には100%救命というところもありました。
アメリカのブリーダーの中には、胃捻転に備え、胃に直接穴を開ける太い針を常備しているそうです。胃が膨張したとき、外から穴を開け、中のガスを排出し、とりあえず減圧して応急処置をしてから獣医に運ぶのだそうです。なかなか勇気の要る行為ですが、それだけ緊急性が高いということなのです。

胃捻転の治療は外科手術が基本です。対処療法により、上手くガスが抜ければ、一時的に状況は好転したようになりますが、すでに内臓の一部が壊死していたり、再発のリスクが非常に高くなっています。実はシンディーは胃にチューブを入れてガスを抜くという対処療法のみしか行なわれず、治療は終了しました。そしてその後間もなく心不全をおこしてしまったのです。つまり、肝心の胃は捻転を起こしたままだったのです。この時私が胃捻転についての知識を持っていれば、治療について疑問を持ち、抗議することが出来たかもしれません。しかし、あいにくコリーは胃捻転になりやすいなどとは、どの本にも書かれていませんでしたから、私はほとんど胃捻転についての情報を持ち合わせていなかったのです。シンディーの死を無駄にしないためにも、多くのコリーファンシャーに胃捻転への危機感を持って欲しいと願ってやみません。

予防について

胃捻転は発症したら覚悟が必要です。ですから、予防が何よりの防衛手段です。これをやっておけば大丈夫ということはないのですが、少しでもリスクを減らす手段はあります。
もし、兄弟姉妹や両親に、胃捻転を起こした犬がいたとしたら、究極の予防処置として、あらかじめ胃を胃壁に固定する手術を施すことも必要かもしれません。固定により、ほぼ100%、捻転は予防できるそうです。

注意点

1)一度に多く食べさせない
最低でも1日2回に分けて与え、ドライフードなら水分を加えておきます。そうしてドライフードを食べた後、水をがぶ飲みすることがないようにします。早食いも禁物です。
1日1回と、2回以上では、胃捻転の発症率に差が出たという報告があります。とくに胃捻転のリスクが高くなる老犬では、1日3回くらいに分けてもいいかもしれません。

2)食後は激しい運動を避ける
食後、数時間は激しい運動はさせないようにします。ただし、犬舎にいても、来客などで突然立ち上がって吠えることがあると思います。急激に状態をひねって起こす動作は危険だと思います。激しい運動でなくても、仰向けでゴロンゴロン体をひねるような動作はさせないようにします。

3)カルシウムの過剰摂取は厳禁
カルシウムを大量に摂取すると、胃内でガストリンという物質の分泌が促進されます。これは胃の蠕動運動を過剰にさせる作用があります。人間でも腸捻転の患者は血中ガストリン値が高くなっているのだそうです。つまり、過剰な蠕動運動が胃捻転につながる可能性があるということです。また、妊娠中にカルシウムを過剰摂取した母親から生まれた子犬は、胃捻転を起こしやすいとも言われています。
シンディーは食後、安静にした状態で胃捻転を起こしました。原因として考えられるのは、前日に与えてしまったカルシウムのサプリメントです。人間用のものでした。もし、私が事前にコリーの胃捻転について知識があったら、シンディーは死なずにすんだのかもしれません。
カルシウムを多く含む牛乳や、煮干などは吸収率も高くないですし、大量に食べることはないので、あまり心配は要らないでしょう。でも、サプリメントでは一度に大量に摂取でき、しかも吸収が早いため、大変危険です。

4)食器は低い位置で
コリーは大型犬ですし、首上げをよくするということで食器を高い位置において与える方が多いと思います。しかし、ある調査で、食器を高い位置にして食事を与えた方が胃捻転を起こしやすいという報告があります。これは食事と一緒に空気を飲み込みやすいということからでしょう。出来れば床に直接お皿を置いて与えた方が安全だといえます。

5)痩せすぎは危険
胃捻転を起こしやすい体質として、慢性的に痩せていることがあげられています。太っている場合、胃の周囲の脂肪が胃捻転を起こしにくくするのであろうと思います。やせている子は腹腔内にゆとりがあるため、胃捻転を起こしやすいのではないでしょうか。

6)年齢
胃捻転は老犬ほど発症しやすいといわれています。老犬になると、胃の周囲の筋肉組織が緩み、ねじれを起しやすくなるからです。しかし、シンディーはわずか生後3ヶ月でしたし、私の知っている限り、若い犬でもかなり発症しています。つまり、年齢を問わず発症するといっていいでしょう。また、性格的に神経質な犬のほうが発症リスクが高いと言われます。これは来客などに敏感に反応し、急激に立ち上がったり、吠えたりする行動が原因となるからだと思います。胃捻転は牡に多いという説もあります。牡の方が警戒心が強く、このような行動を起こしがちだからではないでしょうか。

7)げっぷ
普段から「げっぷ」をよくする子は胃捻転のリスクが高いそうです。このような子は胃の動きが悪かったり、胃の形状などの理由から、胃内にガスが溜まりやすいからです。また、空気を飲み込む癖のある子にも多くみられます。心当たりがある場合は消化の良い食事にするなどの工夫が必要だと思います。脂肪分を多く含むフードは胃捻転を起こしやすいそうです。

8)過度なストレス
過度なストレスによって、胃捻転を起こす可能性も指摘されています。人間でも、ストレスによって胃潰瘍を起す人や、胃痙攣を起す人がいますから、ストレスと胃は無縁とはいえません。私自身、強いストレスを感じると、自分では無意識に空気を飲み込んでしまうらしく、胃がパンパンになってとても苦しい状態に陥ることがあります。犬の中にも、同じように空気を飲み込む癖のある子がいるようですので、同じような状況になった結果、胃捻転を起こすこともありえるのではないでしょうか。
犬にも胃痙攣があるとすれば、これ胃捻転に結びつくと考えても不思議はありません。神経質な犬ほど、胃捻転になりやすいというデータからも、ストレスと胃捻転は切り離すことが出来ないのではないかと思います。